ただ歩き続けよう、立ち止まることなく。
 
* 旅のはじまり * 

 気付けば20代も終りに近づいている。
 自分が何かを生み出せると信じて、ひとつの場所で留まって、現実の中で深く葛藤した日々もあった。

 はじめ、旅は自分を大きく変えるものだった。
 自分はまだ柔らかく、可塑性も高く、素直に周りの影響を受けることができた。
 トラベルは良くも悪くも常にトラブルの連続であり、その中で自分の組成の何かが変わっていった。

 でも旅をいくつか繰返すごとに、いや少しずつ20代が終りにさしかかっていく中で、旅の中でさえも変わらない確たる自分ができあがっていることに気付いた。
 つまり、自分の立っている場所が安定してきたってことだ。もっと正確に言えば、自分の立っている場所はそこが旅の地であってもどこであっても同じってことだ。
 もはや感情が突然ほとばしったり、苦しんだり、悩んだり、ということが少なくなっている。恋愛ですらも、僕を狂わすものですらなくなっている。それがいいことか悪いことがわからない、でも僕は違った意味で日々成長できているし、それを感じとることができる。(もしかしたら、ある場所で葛藤することで成長するための体力をつくって、葛藤することなく単純に前に進むことで本当の成長ができるのかもしれない。ある意味、葛藤がなければ、成長だってできていないのかもしれない。ただ、葛藤を続けているだけでもまた成長できないということもあるのかもしれない。)

 いつかまた自分の立っている地盤さえも疑って、そこを懸命に掘り出すことがあるかもしれない。自分の核を変化させる必要性に迫られてね。
 でも、今はとりあえず、立ち止まることなく、ただ歩きつづけて、吸収しつづけることが大事なのだと思う。
 だから、just keep walking !

 *

 20代までにせっかくだから、世界の大都市を見ておこうと思った。GWにNYに行ったから、単純にパリとロンドン。
 深く考えたりせずに、ただ歩き、いろいろなものを見ておこう、そういう類の旅だ。 人はそれを旅といわずに旅行と言ったりもする。
 
2004年12月29日(Wed) 東京→(KL862)→アムステルダム→(KL1239)→パリ
 
『ミゾレ発曇り空行き』
 
 前夜ぎりぎりのパッキングも既に板について、眠気眼でいつものように空港へ。朝からミゾレ模様で、電車に乗っていると、レールが脳の中にあってそこを電車が走っているような錯覚に捉われる。
 KLMはふつうによい航空会社、サービス。映画や音楽のプログラムがたくさんあって、ちょっと驚いた。
 パリに着けば、既に暗くなり始めている。電車乗り継いでduplexという駅まで。治安レベルがちょっとわからなくて、ちょっと緊張しながら窓の外眺めてた。パリ郊外は黒人や中東系の人が多く、まるでNYみたいだとも思う。よく考えれば、フランスのサッカーチームだってそうだものね。電車は相席型なのだけど、僕の前の席が空くたびに女性が座って、まずこちらを見てにっこりと笑うので、フランス女性に好感をもった。僕の顔がフランスでは割と受け容れやすいってことなのかなぁ。
 ホテルはPacific Hotelというところ。シングルはこじんまりとしてるけど、僕のホテル歴の中では快適なレベル。
 
2004年12月30日(Thu) パリ   エッフェル塔、オルセー美術館、凱旋門

『どうしてパリと恋愛なのか』
 
 朝食を済ませて、エッフェル塔にまず向かう。ホテルから歩いて10分くらいでエッフェルが見えてくる。地上にどっしり構えていて、まるで大きなロボットみたいだ。近寄ると、東京タワーなんかよりもその無機質さが際立つ。そしてプラタナスのなんと整形的に刈り込んでいること。
 そのまま霧雨の中、セーヌ川沿い歩いたのだけど、どこもかしこも整形的で、心の中にまるでひんやりとした鉄製の定規でもあてられているような気分になった。だからこそ、感情は有機的な人のつながりを求めるわけで、パリと恋愛がどうして結びつくのかちょっとわかったような気がした。
 身体が冬のカラスみたいに少し濡れてきたところでオルセー美術館に着いた。入り口は行列で後ろにちょこんと並ぶ。数パーセントが日本人だし、実際、館内放送でも仏語、英語のあとに日本語で「すりがでます」と教えてくれる。
 オルセーは印象派の宝庫ということで、ルノワール、セザンヌ、モネ、ゴッホなどなど観たいだけ観ることができる。ちなみに僕が気に入ったのは、1ボナール、2ゴーギャン、3シニャック、4オキーフ(特別展Alfred Stieglitzとのコラボレイト)、5ピサロ、というところかな。特に写真家Stieglitsとオキーフのコラボレイトは印象に残った。オキーフは花を花弁や雄蕊、雌蕊といったものに拡大して、それを裸にして描いた人だけど、このオキーフを逆にヌードにしたりするという展示だったのです。ボナールはこの旅行でいろいろな作品に触れるうちに好きになったよ。
 夜は凱旋門からコンコルド広場までいわゆるシャンゼリゼを大通りを歩いてみた。光が鮮やかで歩いていて気分がよかった。
曇り空とエッフェル。巨大なロボットって感じです。 セーヌ川とエッフェルです。恋愛のしたくなる構図ですね。 時計と下部の絵の構図がおもしろいのだけど・・・わからないですね。 凱旋門です☆
 
2004年12月31日(Fri) パリ   ルーブル美術館、ノートルダム大聖堂、ポンピドゥ芸術文化センター
 
『足を棒にして歩こう』 

 この日はルーブルへ。また列に並ぶのを覚悟したのだけど、こちらはすんなりと中には入れた。ここは観るというより、歩くといった感覚。ざぁーっと流し見。そのまま、ポンヌフ越えてシテ島まで歩いて、ノートルダム大聖堂を眺めて、さらにコンシェルジュリーの脇抜けてポンピドゥー芸術文化センターまで。
 ポンピドゥーは5Fと6Fが国立近代美術館になっている。5Fはポップアート等のモダンアートなのだけど、ちんぷんかんぷんというか、僕には全く理解不能(いつか、わかるのだろうか)。6Fはマティスやピカソなどの絵画中心で、ボナールに感銘した。ぼんやりとした絵の中で描かれた人の心象が浮かんでくるところがいい。他にはロスコ、バルテゥス、ブレッソンがよかったかな。記念に1Fのショップでロベール・ドアノーの小さな写真集を買った。他にもポンピドゥの周囲はアート関係のお店が多い。
 しばらく怪しげなカフェでたむろった後(珈琲が美味しかった)、ガス灯のような街灯だけの怪しげな通りをバスティーユ広場まで。感覚としてはプラハの夜にも似ているところがあった。趣があるというか、なんというか。
 ほんとうは年の変わり目をエッフェル塔の下で迎えようと思っていたのだけど、さすがに歩きすぎて、気付いたらホテルのベッドの上で眠りこけていた。突然、花火と嬌声が聞こえ、窓を開けると、上空を硝煙が漂っていた。人々の叫び声が聞こえてきた。きっと、おめでとうぉぉー、とでも叫んでいるのだろう。2004年は終り、2005年が始まった。

ルーブルのピラミッド

獣が見下ろすノートルダム

コンシェルジュリーとセーヌ

セーヌを行き交う船

ポンピドゥー芸術文化センターの面構え

なぜか、ちらし寿司
 
2005年1月1日(Sat) パリ→(BMI176)→ロンドン   『レ・ミゼラブル』観劇
 
『快適なロンドン初日』 
 
 シャルルドゴール空港まで地下鉄。車窓から見えたエッフェルとセーヌに「さよなら」を言う。元旦ということなのか、パリの交通機関はすべて無料でなんだかお得。
 パリからロンドンへの移動はbmiという格安の航空会社を利用。格安だからバスみたいな自由席で、珈琲なんて絶対つかないのだろうなと思っていたらそんなことはなくて、きちんと席はあったし、デザインもいいし、サンドイッチまで出てくるしで、ふつうの航空会社でしかなかった。ここ、お薦めかも。
 ロンドン空港からホテルまでが早かった。ヒースロー空港から、クレカで切符買って、ヒースローエクスプレスでパディントン駅まで15分。€から£への交換を忘れてしまってたくらい。駅で通貨を変えて、ホテルまで歩いて5分。ホテルはQuality Hotelというところ。ロンドンでは安い部類だと思っていたので、てっきりすごい狭い部屋かと思っていたら、ふつうに広かった(僕のレベルでね)。建物も綺麗ですっかりくつろいで、テレビでサッカーとか観てた。
 夜闇に包まれてから、地下鉄乗って、ピカデリー・サーカス駅まで。中華街で中華を食べてから(ふつうに美味しかった)、「レ・ミゼラブル」観劇。レミゼは日比谷の帝国劇場で見たことがあったのだけど、本場?のは、三角関係の恋愛シーン(泣きそうになる)とコメディカルな部分がよい。ただし、戦いの部分は日比谷のほうが上だったかも。少年が死ぬシーンも隊長以下が死ぬシーンももう一つだった。日比谷では隊長にスポットライトが当たった瞬間にすごい拍手だったのに、ここは誰も反応してなかったし。(拍手の用意は万全だったのにね。)というのも、重要な役どころを何人かで割ってしまっていて、さらにその人たちが何役もこなすので、死の一回性のようなものが弱かったのだと思うよ。悲劇のヒーローはやっぱりもう少し活躍させて、死んだら他の役で出さないとかしたほうがいいんじゃないの?とか思ってしまったことだよ。それから今回の観客のマナーが悪かった。咳をみんなゴホゴホずっとやり続けていて、ほんとうに勿体無い。・・・そうして僕の喉にもこの後、えへん虫がとりついてしまったのでした。

bmiの飛行機。格安なのにデザインセンスもいい。

レミゼであります。

 

2005年1月2日(Sun) ロンドン   ロンドン塔、テートモダン、大英博物館
 
『上澄みと沈殿、あるいは濾過』 

 冷ややかな空気、澄んだ青空のもと、ロンドン塔へGO。ロンドン塔の中を探検。イギリス王室に関する歴史がわかるときっと楽しめます。僕はまぁこんなものかなという感じ。
 ロンドン塔からテムズ河沿いにミレニアムブリッジまでてくてくと。ミレニアムブリッジを渡ってテートモダンに行くわけですが、ここが風の通り道になっていて寒いのなんの。身が凍えます。
 テートモダンは2000年に古い発電所を改築してつくった現代美術館。建築自体がけっこう面白いです。ロスコの部屋が印象に残った。ロスコの絵を見ると、身体の中で軽いものと重いものがきちんと分かれていくような感覚がある。僕らってそういうものをごちゃごちゃにして普段生きているのだけど、それがきれいに沈殿したり上澄んでいくのがとてもきもちいい。
 ミレニアムブリッジを渡り返して、大英博物館へと向かう。途中のSOHO周辺もちょこっと歩きまわってみる。ロンドンはスクエアといって住宅街の中の道路が交わるところに公園があったりするのだけど、これがとてもいい。人はそのまま公園を歩いて、通り抜けたりするわけだけど、緑のなかを通るとまるで濾紙を通ったように、不純物がなくなっていくような感覚になれる。もともと恵比寿神社といったこういったスクエア形式が好きな僕にとってはたまらなく魅力的だった。日本もこういったスクエアみたいなものをつくると街の雰囲気が和らぐのだけどな。いずれ、暇なときにでも、ロンドンのスクエア巡りでもしてみたいなと思ったよ。
 大英博物館はすばらしいです。イギリスが世界中から集めた彫刻や像、お宝の類がこれでもかこれでもかと出てくるわけだから。エジプトものが特に優雅でよいです。スーダンの特別展で、それも古代のヌビアのものが展示されていて、もしかしたら『アイーダ』みたいに運命の人と出逢えるかなと期待したけれど、さすがに逢わなかったよ。ちょっとどきどきしたんだけどなぁ。少なくとも僕はヌビアの女王と恋に落ちたエジプトの将軍ではなかったみたいだ。
 大英博物館を出ると、さすがにちょっと見すぎたのかふらふら。珈琲ショップでケーキなど食べて糖分を取り返したり。
 ロンドンという街はすごく肌に合うかもしれないなんて思ったり。

ホテルです。見た目がきれい。 ロンドン塔、いい天気です。 ロンドン塔の敷地内。芝が鮮やか。
これもロンドン塔。 これも・・・。 タワーブリッジとテムズです。
ミレニアムブリッジとテートモダン。 ま、まぶしい。 SOHOのかっこいいソバ屋。ラーメンなる代物ですが味は・・・。
かっこいい羊男 4人官女 大英博物館にいた鬚のおじさん
 
2005年1月3日(Mon) ロンドン  ホーランドパーク、ナショナルギャラリー、『プロドューサーズ』観劇
 
『ロンドンを歩き回る』 

 ケンジントン・ハイ・ストリートをお散歩。落ち着いた雰囲気の通りで、お店がちょこちょことあって楽しい。通りから一歩中に入ると、整然とした住宅街が広がっていて、ちょっと驚いてしまった。住宅のレベルがロンドンはほんとうに高い。
 ホーランド・パークという観光客は絶対立ち入らないような公園に入る。美しい緑の中、犬を連れて散歩している人が多く、生活を楽しんでいる様子がみてとれた。こんな公園があったら、日々リラックスすることができそう。珈琲ショップや日本庭園なんかもあって楽しめた。リスやハトが全然人をこわがらないのにも少し驚いた。リスの写真を撮ろうとしたら、あまりにカメラのそばに近づいてきて、焦点が逆に合わなくなったりもしたよ(笑)
 ホーランド・パークの向こうはノッティングヒル。こちらも瀟洒な住宅街。
 ここから、いったんSOHOにチューブで抜けて、お店をちょこちょこ見てまわる。街に詳しくなったら、結構楽しめそうだった。
 ナショナルギャラリーは良い絵が多い。スラー、ゴッホ、シニャック、シスレー、モネなんかがよかったです。(といっても、絵もありがたみがなくなって、印象派しか観て来なかったのだけど)
 夕方近くなって、コヴェント・ガーデン周辺へ。ショップが軒を連ねていて、バーゲン時期ということもあって、人でいっぱいだった。ポールスミスやら何やらわからないセンスのよい店を冷やかして歩いた。サイズがあとで合わないと悲惨だから結局お金は使わなかったけど。
 最後にロンドンのフィナーレとして「プロデューサーズ」観劇。人気のあるお芝居のようで、すごい熱狂振りだった。ただ、どちらかというとロンドン在住の中高年紳士淑女が中心といった感じ。コメディなわけだけど、僕はここに来て、自分がミュージカルにコメディを求めていないことに気付いたよ。というか小説とか映画もそうだから、趣向が違うということがいえるかも。それでも結構楽しめるのだけど、英語力のなさを痛感。ヒトラーネタなどあったのだけど、みんな笑っているのに、わからないという哀しい思いをしてしまったよ。
ホーランドパーク 犬用のトイレです。 こんな庭園もあります。この横にはコーヒーショップがあります。
京都庭園なる庭もあります。 京都庭園の全貌 リスがたくさんいます。すごく近くまでやってきます。
ノッティングヒルの住宅街 ノッティングヒル。高いのかなぁ。 建物のコントラストがいいですね。
トラファルガー広場と空 水が水色。 この広場、空間的に緊張感があっていいです。
プロデゥーサーズを観劇した劇場です。 コヴェントガーデンマーケット。
 
2005年1月4日(Tue) ロンドン→(KL1008便)→アムステルダム→KL861便)
     1月5日(Wed) →東京(成田)
 
『帰国』
 
 パディントン駅からあっという間にヒースロー空港。
 買ったおみやげを乗り換えのアムスで忘れたけど、まぁご愛嬌。
 最後のフライトはいつものようにお腹が痛くなる。(今度からちゃんと薬を飲もう。)
 隣の席の女性のキリマンジャロのお話を聞いて、そんなこんなで旅はおしまい。
機上より。 空は青いのです。
 
* 参考WEBページ *

【ホテルクラブ】 http://www.hotelclub.net/ ホテル探しに便利
 
 【トラベルコちゃん】 http://www.tour.ne.jp/ いつも使ってます。ここで複数の代理店に尋ねて比較します。オールウェイズという代理店を今回は使いました。
 【Flying Cheap!】 http://europe.s9.xrea.com/  ヨーロッパの格安航空会社の紹介ページ。
 【bmi】  http://www.flybmi.com/bmi/en-gb/index.aspx  格安航空会社の1つでネット予約可能。安いだけでサービスは同じ。今回はパリ→ロンドンが31€(+税などで27.85€)。
 

 【チケットマスターUK】 http://www.ticketmaster.co.uk/ ミュージカルのチケットを事前に予約可能。当日窓口でクレカ確認。
 
【ミュージカル大好き舞台をみよう】 http://iina.com/musical/ NYで会ったプリンさん運営。ロンドンでのミュージカルのチケットの取り方も書いてあります。参考に。
 
 
【損保ジャパン】 http://www.sompo-japan.co.jp/kinsurance/kaigai/off001.html 保険も一応ね。