'99 ヴェトナム、メコン川のバイク旅



タイから帰って、上京して勤め人になって数ヶ月。
東京の満員電車に揺られる生活の中でそろそろ身体や心に溜まった見えない毒素を放出したくなった。
人のいかないところへ。日本人が日本人として認められないところへ。

アジアの何処かに行ってみたいと思った。イラン、インド、スリランカ…。
そして、選んだのはヴェトナムだった。
以前メキシコで会った一人旅の女性に聞いたベトナムのラーメンの話や、友達から聞いたベトナムの女性のアオザイという衣装の話などが心の隅に焼きついてたせいもある。

航空券とったあと、東京のhumidな夏が到来するにつれて、ぼくは多少後悔し始めた。
せっかくの休暇なのに僕は東京よりさらに熱い処へ行こうとしているのではないか!
こんなことなら冷涼そうなネパールかなんかにしとけばよかった…。

夏休みは週末を2つくっつけて9日間。
夏休み初日にまずしたことは、原宿に出て旅行用のザックを探すことだった。
できるだけ小さなものを購入した。フランスのメーカーなのに中見ると、made in Vietnamになってて笑っちゃった。

羽田−関空経由でホーチミンへ。
飛行機はなんか女性でいっぱい。ベトナムはどうやら人気らしい。
飛行機で同席だった隣の女性たちが早速話し掛けてくる。
札幌の人ということで話は盛り上がる。休暇に解放感一杯みたいでビールを急ピッチで飲んでいる。
結局僕も数本のビールを空けつづける羽目になったよ。
相変わらず僕は到着先が夜中というのにホテルも決めてない。
女性たちは目を丸くしてる。私達のとこ、こっそり泊まったらって勧められてしまう。
はははっ。
結局自分の足でホテル探すことにする。
空港で捕まえた(いや捕まえられた)タクシーの運ちゃんが捜してくれる。
ホーチミンの中心にありながら安いのに、部屋は綺麗だし、テレビは無数にチャンネルがある。
さらにフロントの女の子の計らいでホテルの一番てっぺんの部屋にしてもらう。
部屋の脇から屋上でると、熱帯の異国の町並みが広がっている。
ぼくは戻ってきた、そんな感慨になる。

飛行機の女性たちのホテルに行って一緒に夕食食べようと思うが、残念ながら出た後。
仕方ないからそばの小さな店で生春巻きを早速つまんで、ビールを喉に流してると、怪しそうなベトナム人がやってきて、
「明日バイクに乗らないか?」なんて誘ってくる。
追い払っても全然効き目ないので結局、バイクも気持ちよさそうだし、まぁいいか。ってことにする。
多分この時点で違う選択をとっていたら、ぼくの旅はきっと180°くらい違ったものになっていただろう。
日本にいて普通の生活をしてるとあまりわからないけど、旅先では1つ1つの選択が全然別の世界につながっている。それが魅力でもあるわけだが…。

翌朝、そのベトナム人(以下、ガイド君)がバイクで迎えにくる。
ザックを背負って後部座席に腰掛ける。
そして…驚くべきことにノーヘルなのであります。
燦燦と降り注ぐ南国の太陽の下、フランス時代の情緒残る市街地を抜けていきます。
ベトナムの車道には車の数に比べて、バイクが圧倒的に多く、その間をチャリンコやらシクロが走り回って危ないことこの上もない。交通法規も何もあったものじゃない。
日本ではあまり使うことのない動物的な自己防衛的な身体反射みたいなものを常に動かしていないと確実に交通事故に合えます。
郊外にでると、どこまでも続く一本道。沿道の両脇では椰子の木が熱風にそよいでいます。
昔NHKでみたアジアン・ハイウェイそのままの世界です。
ミトーという街で舟にのって、ココナッツキャンディーを作ってる小さな工場を見学したりします。
メコン川の色は茶濁。この水の中にはナマズやら得体のしれない川魚たちが往行しているに違いない。
きっと子供に川の絵書かせたら、青色の絵の具は決して使われることないだろうな。
南国風の黄色の花咲き乱れる街路樹のある通りにホテルとる。
夕食は二人でたらふく食べても300円もしない。それでもガイドくんは高い!と不服顔。

あとで段々わかってくることなのだが、ベトナムは少なくとも都市部では金が全てという感じの国ですね。ベトナムには底知れぬエネルギーを感じるけど、それも金に対する恐ろしいほどの貪欲さが潜んでるわけで、あまりお金の苦労もせずに育ってきた日本人のぼくには非常に疲れる世界だったんだよね。

翌日はカントーというメコン川第一の都市まで行く。
太陽は陰るということを知らないようで、ギラギラとした強烈な光を浴びせ掛けている。
慌てて日焼け止め塗るけれど、もう手遅れ、東京で培った白い顔がすでに半分ベトナム顔になっている。
途中で道に関所みたいのがあって、そこでお金を払う。
なんのことやらと思えば、目の前に茶濁のメコン川がとうとうと流れている。
道路の終点がそのまま舟になってるわけです。
渡し舟に車もバイクも人も乗り込み、対岸まで。
舟の中で子供達の笑顔とったりする。
屈託なくて可愛い。

さらにもう一度渡し舟。ここでは枯葉剤の影響なのか手と足の区別のつかない奇形の人がいた。 ねぇ僕は何を思えばいいのだろう。
気の毒だなんて言葉はもはや意味をもたない。

同じ星に生まれながら僕はなんて幸せなんだろうと思った。
そして日本人として生れたことにこれまでにない感謝の念を覚えた。

カントーの街へ出て川辺を散歩。
異国の強烈なパワーの中でぼくは安らぎが欲しかった。
日本に帰って早く彼女に会いたいと思った。
心の底深くから希求したんだ。

翌朝、メコン川の水上市場なぞ観にいくのに舟にのる。
水上市場には竿先に様々な野菜をつけた舟が行き交っている。
竿先について野菜がすなわち、その舟が交易する野菜なのだ。
途中の島に上陸して、生春巻き食べる。大きな川魚がまる一匹でてきて、それをコリアンダーみたいな野菜と巻き巻きして食べる。

カントーからヴィンロンという街へ。
突然雨が襲ってくる。しょうがなくカフェで雨宿り。
ここに素晴らしく綺麗な女の子がいた。ぼくの人生が狂ってもおかしくないほど綺麗な女の子。
そんな子と目があうと、細胞が震え上がるよ。

雨があがったところで一挙にミトーに向かう。
ホテルのそばのミッションスクールに遊びに行って、子供達と遊ぶ。
皆盛んに僕と手をつなごうとしてくる。可愛いよ。

夜はガイドくんの友達という舟会社の社長さんのうちに伺う。
丸い月の光が照らす夜の川面をゆく舟にのって対岸まで。
魚料理をふるまってもらえる。なかなかフレンドリーな人だった。
そのあとガイドくんと社長さんとヴェトナムのマッサージの店に。
なんだか凄かった、身体が自分のものじゃないみたいな感覚だったよ。
(翌朝、社長さんは奥さんにそれがばれて怒られてた(笑))
社長さんと別れたあと、ガイド君が得意というビリヤード。
ぼくはほとんどやったことないのに何故か圧勝。あれれという感じ。

朝、社長さんの舟にのる。
舟のりバイトをしている大学生のミギくんと仲良くなる。
なかなかハンサムな男の子でした。
君なら、日本ではめちゃくちゃもてるよって教えてあげたら照れてた。
実は彼は将来日本人と結婚したいのだそうだ。
盛んに僕の月給とかきいては、う〜んなどと唸っていた。
彼といった島がなかなかいいところだった。
椰子の木が生える小道がつづくような田舎的風景。
ほんとに心がやすらぐよ。
彼もホーチミンは苦手なんだ、なんて話してたよ。

ミトーに別れを告げて、喧騒と排気ガス立ち込めるホーチミンへ。
ガイド君が綺麗で安いホテル紹介してくれる。
ここでとうとう胃腸ダウン。
夜中、吐いた。なんでいつもこうなるのだろう。
結局最後のホーチミンの一日も胃が食べ物を受け付けず、苦しい一日。
一応市場まわって、おみやげくらいは買ったけどね。

翌朝、ガイド君がバイクでホテルまで迎えにきてくれる。
空港までのせてもらう。
あ〜こんな旅する日本人は普通いないよなと感慨深く思ったよ。
ベトナムという国の強烈さを骨の髄まで知った旅だったね。

帰国というより脱出という言葉のほうが適当な気がしたよ。
おしまい。